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はじめに
CAT/PTT/CW/RTTYの無線機インターフェースは光でアイソレーション出来ているのに音声系統のインターフェースはいまだに山水のトランスでアイソレーションしているのが気になっていました。以前より作りたいと思っていましたが自作の例も皆無でどうしようかと思っていて何年もたってしまっていました。光アイソレーターと言えばフォトカップラですがフォトカップラの規格表やアプリケーションノートを色々読んでも汎用フォトカップラであるPC817やTLP521のアナログ回路例はなくCTRの選別品や直線性の選別品した物をTVのVIDEO端子インターフェースの回路で使われているようでし
た。高リニアリティ・アナログ・フォトアイソレーターの究極?はアバゴ(旧HP)のHCNR200の様ですが高価ですし簡単に入手できませんので仕方なくフォトカップラは汎用品を使って、後は回路技術?!でどうにかならないかと思考してみました。Hi!
フォトカップラに音を通すって?
基本的にはLEDを振幅変調してフォトトランジスタのコレクタから取り出せばフォトカップラに音を通過させられます。
フォトカップラはじゃじゃ馬娘!
汎用フォトカプラのCTR(トランジスタで言うhfe)は曲者でとんでもないバラツキがありオマケにCTRの値によって直線性の良い場所が違うと言うじゃじゃ馬娘なのです。また、温度による変化もありますのでフィードバックによる自動制御を行わないと安定度が非常に悪い物が出来てしまいます。
フォトカップラのLEDを振幅変調って?
LEDを振幅変調すると言うことは音の大きさでLEDの明るさを変化させると言うことです。音圧変化の割合と明るさの変化の割合がキチンと比例して変化すると歪みの少ない変調が掛かっていることになります。また、LEDは電流素子ですので音圧の電圧変化を電流の変化に直してやる必要があります。LEDは電流ドライブの必要があります。
基本回路?!
図1は抵抗の定数とフォトカップラのバラツキの具合で使えるかもしれないし使えないかもしれません。基本を学ぶためには良いのですが実用回路としては問題が多い回路です。じゃじゃ馬娘なフォトトランジスタのCTRのバラツキ(個体差)によってR1に流れる電流が大きく変わって特にフォトトランジスタの出力側のトランジスタ部分の動作点が部品の個体差によって大きく変化しますので非常に再現性の悪い回路です。
図1
いい加減な回路?
フィードバック制御と言えばPID制御ですが簡単なP制御は必要な様です。ちょっと、おおげさでしたね。図2は最小の部品でと言うことでフォトカップラだけでフィードバックをかけてみました。いい加減な回路ですがCTRのバラツキを結構抑える事が出来ます。この回路の欠点は入力インピーダンスが低い、直線性の良い点を求めにくい、自分で思った動作点に設定しにくい等の問題点があります。
図2
使えるかもしれない回路
図1から始まって異なった発想での回路を十種類くらい書いて回路シミュレータと実際に作ってデータをとってみました。あーでもなおこーでもないと色々遊ばせて頂きました。フォトカップラ2個その他少々の回路ですが二ヶ月以上遊べました。
動作の説明
Q1は単純なエミッタフォロアです。ベースバイアスはU1のLEDの順方向降下電圧(Vf)とQ1のVce(sat)+Vbeを考慮し出力振幅が最大にとれる点に置きます。R9はLEDを電流ドライブするために重要な抵抗です。入力インピーダンスはR9×hfeですがベースにR2/R7の抵抗がぶら下がっていますのでその抵抗値よりは高くなりません。また、R9を小さくすると電圧変化対電流変化が大きくなり見かけ上ゲインが大きくなりますが電圧ドライブに近くなり歪みが多くなるかもしれません。Q2とU2はU1のコレクタ電圧が約3V(出力振幅が最大にとれる動作点)になるようにフィー
ドバック制御するための物です。約3Vと言う電圧はD1のVf+Q2のVbe+R5とR3の分割比で決まりますのでD1に高輝度白色LEDを使うと予定した動作になりません。この回路ではD1に2.1V位のVfを期待していますので赤色橙色黄色緑色の安物を使って下さい。(白色は3.5V)また、D1の代わりに1S1555等のミニスイッチングダイオードを数本直列(本数を変えてみる)に使うとU1の動作点を変えることが出来ます。R6はU2の保護抵抗です。
図3
フォトカップラのランクについて
回路ではPC817のランクCを使いましたが他にTLP521のランクGRやランクGBでテストしましたが実用上問題なく動作しました。フォトカップラのCTRによってゲインと歪みが変化しますがCTRが150~300であれば特に問題は無いようです。
歪率の追求?
さらに低歪率を追求する場合やフォトカップラのCTRによってはR1とR9を調整することによって歪みを低くすることが出来ますので歪率測定しながら各抵抗値を-50%~+200%位の範囲で調整してみてください。全体のバランスがとれている状態ではU1のコレクタ電圧は約3Vに自動的に維持されますので割合簡単に調整できます。USBを電源に使いたかったのでVccを5Vで設計していますので余り大きな出力電圧が取り出せません。RMSで400mV以下の出力が歪み率適に見て上限の出力電圧でしょう。また、僕の実験では400mVの出力でTHD 0.1%がこの回路の限界値でしょう。
測定
測定を行うには「オシロスコープ」・「オーディオジェネレータ」・「低周波歪み率計」・「ミリバル」等が必要になりますが「ミリバル」はデジタルテスタで十分でしょう。
「オーディオジェネレータ」は
WaveGene
http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/soft/wg/wg.html
「低周波歪み率計」は
WaveSpectra
http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/soft/ws/ws.html
いつもお世話になっている「efuさん」です。Thanks efu!
「オシロスコープ」は
Soundcard Oscilloscope
http://www.zeitnitz.de/Christian/Scope/Scope_en.html
日本製の「オシロスコープ」は
ハンディ・オシロスコープ
http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se376225.html
と言うフリーウェア群で測定しました。
「オシロスコープ」は軽快さ歪み率測定という意味ではトランジスタ技術2006 年8 月号、2007 年4 月号、2007 年8 月号のCD-ROM に入っているSoftOscillo が良いと思いますが残念ながらフリーウェアではないので紹介できません。
SoftOscillo
http://digitalfilter.com/products/softoscillo2/softoscillo2.html
どんな音?
ここをお聞き下さい。
https://bunshiro.love/uploads/if-pc817.mp3
最後に
フルディジタルで光インターフェースが使える時代にあえて「歪み率がきわめて悪い」音声インターフェースと思われた方も要るでしょう。それは事実です。しかし、山水のトランスで高出力送信機のアースラインを分離するのは少々恐怖を感じますし、僕が作れば、もっと良い物を誰か作ってくれるでしょう。もっと良い物はデジタルでもアナログでもよいでしょう。ローコストでみんなが簡単に使える物を願います。それを期待して遊んでみました。最後まで読んで頂きましてありがとうございました。
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田村文史郎/JA5FNX